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森に続く小径を今日も往く。その森の奥深く、生命の泉があふれるところ。思い出すように、懐かしむように、足裏をしっかりと地につけて、歩む。
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川が どこで生まれたか

わたしは 知らない



川が 流れる決心をしたときのことも

わたしは 知らない



水の恩恵を ただ ありがたく いただくばかりの人生というものに

そろそろ おかえしを したくなった



鮭が 次代の命を 産みつけるために

生まれ故郷の 川を 遡るように

みずからの皮膚が どれだけ傷もうと 省みもせず 遡るように



わたしという川が どこで生まれ 

どうやって 流れる決心をするに至ったかを

知りたくなった

次代の命を 生み落とす場所は 

始まりの場所以外には 考えられないから



湧き出る泉か

はたまた 天から降り注ぐ雨によるものか

わたしの出自を わたしは 知らない



どちらにせよ 始まりは 一滴の水

もしも 辿りつけたなら 

あらたな ひとしずくとして よみがえりたい




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月影が 波間で 揺れる

小舟が 一艘 波間に 揺れる

舟の上

男と女の 後姿が 見える

若い女が 男に身を寄せている

波音に混じって 女の声が 鈴のようにころがる

「なぜって?

ふふっ・・・知らないわ、理由なんて」

男は女に 何を問いかけたのだろう

男の声は 聞こえない



月はしだいに 傾き、やがて 水平線に隠れてゆく

砂浜を歩く 一人の女

朝日は もう 今にも顔を見せそうだ

その兆候は 充分すぎるほどに 砂浜に広がっている

女は 東を背に こちらに向かって歩いてくる

漆黒の髪、浅黒い肌、黒曜石の瞳

マリアじゃないか・・・

さっきの 小舟の女は マリアだったのか

男はどこへ消えた?



マリアは 独り言のように 呟く

「何故って?

おかしなことを 聞くのね

理由なんて あるわけないじゃない」

早朝の風に 透けるように薄い生地のスカートを ゆらめかせて

マリアは 砂浜を 歩く

裸足で



朝日は マリアの背中から 今 まさに 昇るところだ




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着物という 日本語は

今では「和服」の意味で用いられるようになった

ある意味、民族衣装と 言える



近代以前、まだ 自我が民族の域を超え切れていなかった頃

着物姿は 日本人の民族的特徴を よく現していたのだろう

それは 制服のように、外から押し付けられたものではなく

個人が 個人の内部に在る民族的な「身体」の 現れとして

肉体の外に あふれ出していたものだった



今、時代は すでに自我が民族を超えて 個人のものとなっている

個人は 自分の肉体を 自分の現われとして捉え

衣服は さらに 肉体からにじみ出て、あふれ出した 自分自身として

とらえた方がいい

決して

肉体の内部に 自分を感じてはならない

私たちは、自分の肉体の外部に いるのだ

本当は



そこから 自分という 人間としての多様性を 一つ 実現すべく

肉体を もって この世に舞い降りているのだ



肉体の内部にとどまらず 外部にまで 自分自身を押し出すつもりで

衣服を 身につけたいものだ

制服だけじゃない

流行のファッションに合わせることもまた

自分じゃないものに 自分の身を包ませて

自分自身が 外に出たがっているものを 押さえつけることになる

自分自身が 外に出たがっているもの・・・

それは、自分という「気」だ

自分にしかない この世にたった一つの「気」

この「気」が物となって 私たちを包んでこそ

「きもの」となるのだ




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短く カットした髪が

夜風に 吹かれて 後方に揺れる

窓を開け放した 車の中

運転席の私は 何かを吹っ切ったように 晴れ晴れとした顔で

南へと 車を走らせている

夜の 海岸通り

椰子の木が 何本も 何本も 並んでいる

新しい家へと 向かっているのだが

そこは マイホーム

懐かしい故郷であることを 知っている

車の後ろ座席には

ベレー帽を被った 幼子が二人

満ち足りた思いで走る 深夜のドライブ 


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今日という日は

外に出ても 中にいても

目に映るもの すべてが 美しく

一秒前と 一秒後のあいだに なんの変化も見つけられない

なのに、始まりから終わりまで

つまり、朝の訪れから 日暮れるまで

ちゃあんと 時は 重なっていった

今日という一日を

静止画を見るように 眺めていた





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